楽曲情報
作曲家名:山本 雅一 (Masakazu Yamamoto)
演奏時間:9分00秒
グレード:3(中級)
スタイル:オリジナルレパートリー
楽曲紹介
私たちは、時間という道を絶えず進んでいる。目印があるにせよ、道無き道にせよ、時に歩を速めたり緩めたりしつつも揺るがない精神で前進し続けていく…この作品にはそんなイメージを持たせている。
大まかに3部構成である。日の出に導かれる様に静かに出発する主題はしばらくするとややしっかりとした足取りとなって進んでいく。わずかな休息を経て現れる中間部は少し荒涼とした雰囲気から始まるが、やがてドラマティックな展開を伴う。一つの頂点を迎えると光が収束する様に静まった余韻から足音と共に冒頭のテーマがより確信に満ちて回帰する。テーマが幅広く強調されて最大のクライマックスを迎えると、再び静かに歩き出すのを見送る様に終曲となる。
グレード3.5から4程度。全体的に「歌心」溢れる表情豊かな音楽を心がけたい。また、ドラマティックな構造もしっかりと把握する事。基本的に推進力が大事だが、むやみに走らないように。
甲府市民吹奏楽団第48回定期演奏会(2016年3月6日)にて初演。(山本雅一)
Free Memo
「時間」について考えたことはあるだろうか。私たちが生きているこの世界には、止まることなく進み続ける――あるいは、私たちの認識の及ばないところで、循環しているのかもしれない――時間というものがある。私たちは、この流れゆく時間を逆行することはできないし、他の人より先に進むこともできない。それにもかかわらず、「時間」は全ての人が同じように感じるわけではない。同じ空間で、同じ時間、同じ体験をした人々は、同じ時間の長さを感じるだろうか。否、よほどのことがない限り、それは起こりえないのである。ともかくも、このように不安定な概念である時間を歩む、私たち自身を音で表現した作品が、山本雅一の《彼方へのうた》である。
彼方から此方へと、聴こえてくるフルートの「うた」が、全ての始まりを知らせる。金管楽器群が入り、B-Durの香りを漂わせると、本作の中心となる旋律がアルト・サクソフォンとホルンによって歌われる。この旋律は、徐々に力強さを増してゆき、進みゆく時間の上を歩み進んでゆく。中間部では、g-Mollへ至り、オーボエが寂しげな旋律を奏でる。この旋律もまた、少しずつ強まってゆき、中間部の頂点を形成する。その後、テンポを取り戻すと、中心となる旋律と性格の似た旋律が奏され、音楽は、前へ前へと推し進められてゆく。最後は、冒頭で、彼方から聴こえてきたうたが、此方から彼方へと響いてゆく。
本作の最も特徴的な点は、曲中に現れる旋律が、全体として統一されている点であろう。歌われる旋律は、その場によって性格が異なるが、その核となる「うた」は変化することのない、永遠性を持っている。それは、私たちが生きる「時間」というものが、私たちの周りのすべてを彼方へと消し去ってしまう中で輝く、私たち自身の中にしか存在しえない「思い出」のようなものなのかもしれない。(石原勇太郎)
楽器編成
Piccolo
Flute 1
Flute 2
Oboe (opt.)
Bassoon (opt.)
Eb Clarinet (opt.)
Bb Clarinet 1
Bb Clarinet 2
Bass Clarinet
Eb Alto Saxophone
Bb Tenor Saxophone
Eb Baritone Saxophone
Bb Trumpet 1
Bb Trumpet 2
F Horn 1
F Horn 2 (opt.)
Trombone 1
Trombone 2
Euphonium
Tuba
String Bass (opt.)
Timpani
Piano (opt.)
Perc. 1:
Snare Drum
Suspended Cymbal
Triangle
Rainstick
Glockenspiel
Perc. 2:
Bass Drum
Crash Cymbals
Suspended Cymbal
Tubular Bells
Vibraphone
Perc. 3 (opt.)
Bass Drum
4 Toms
Suspended Cymbal
Xylophone
Glockenspiel
山本雅一(Masakazu Yamamoto)

山梨大学大学院在学中に「現代の音楽展2001」(日本現代音楽協会)に入選。作品発表を開始。
2004、2005、2008年、ピティナピアノコンペティションの課題曲に採用。
2012年、奏楽堂日本歌曲コンクール作曲部門第1位。同年9月に歌曲による初の作品個展を行う。
2015年、初のピアノ曲集を出版(マザーアース)。
2016年度全日本吹奏楽コンクールの課題曲に「スペインの市場で」が採用。
これまでにピアノ、歌曲、室内楽、吹奏楽、管弦楽から電子音響、美術作品やダンスとのコラボレーションまで多方面に及ぶ。
編曲も多数。2013年には「オーボエアンサンブル HAIM」のアレンジに参加。
2014年には武満徹の「SONGS」全曲を編曲したCD「タケミツソングス」をリリースし、全国ツアーを行う。(ピアノも担当)
2015年には日本歌曲の編曲を中心としたツアーを、オランダ、スペイン、フランス、イギリスの各国にて行う。
作曲を藤原嘉文氏に師事。電子音響を成田和子、吉原太郎の各氏に指導を受ける。
山梨大学非常勤講師を経て現在フリー。甲府在住。
ピティナ審査員、ヤマハグレード試験官他、後進の指導にも積極的に携わる。
日本作曲家協議会、全日本ピアノ指導者協会、日本電子音楽協会他、各会員。
<主な作品>
・スペインの市場で(吹奏楽/2016年度全日本吹奏楽コンクール課題曲)
・Pantomime(ハープシコード/国際古楽コンクール<山梨>委嘱作品、本選課題曲)
・銀河ステーション(吹奏楽/21世紀の吹奏楽 第19回”響宴”入選作品)
・フォレストスケープ(吹奏楽/21世紀の吹奏楽 第15回”響宴”入選作品)
・谷川俊太郎の詩による2つの歌曲(歌曲/奏楽堂日本歌曲コンクール第19回作曲部門第一位受賞作品)
・紫陽花(弦楽四重奏/第15回東京国際室内楽作曲コンクール入選作品)
・Pandora(ピアノ/2005年度ピティナピアノコンペティション特級課題曲)
http://yamamotomasakazu.com